12月17日、消費者委員会から「有料老人ホームの前払金に係る契約の問題に関する建議」がなされました。
有料老人ホームに関する相談件数は増加の一途をたどっており、昨年度の全国の消費生活センターに寄せられた相談件数は、上記改正老人福祉法が施行される前の平成17年度対比約1.7倍にまで増加しています。中でもその8割に「契約・解約」に関する相談が含まれており、家賃や入居一時金等の名目で徴収される前払金の返還金に係る苦情が多いことが明らかになっています。
これを受け、消費者委員会において、厚生労働省、関係団体(特定協にもお越しになりました)、消費者団体等のヒアリングを行い、また東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県の重要事項説明書を調査するなどして、厚生労働省に対する建議がなされました。
この建議は、消費者庁及び消費者委員会設置法に基づき、厚生労働省に対して制度見直しや行政指導強化を要請するものですが、我々有料老人ホーム事業者に対する警告でもあります。各有料老人ホーム事業者におかれましては、この建議を参考にしつつ、制度の趣旨を踏まえた表示、契約内容、説明をお願い申し上げます。
建議の具体的の内容は以下のとおりです。また、消費者委員会の公表資料もぜひご覧ください。
1 短期解約特例制度(いわゆる90日ルール)についての法制化・明確化
- 90日ルールを設けていない事業者に対して都道府県が適切かつ実効性のある指導等を行うことができるよう、同ルールの法制化等の措置を講ずること
- 上記法制化等の措置を行うに当たっては、90日ルールの趣旨を逸脱した運営を防止する観点から、
(1)契約締結時点で入居可能でない場合の取扱いを定めること、
(2)90日以内に契約解除の申出を行えば、同ルールが適用されることを明確にすること、
(3)死亡による契約終了の場合にも、同ルールが適用されることを明確にすること、
(4)事業者側が返還時に受領することができる利用料等の範囲をより明確化すること
2 前払金の保全措置の徹底
- 厚生労働省は、老人福祉法第29条第6項の規定に違反して、前払金の保全措置を講じていない事業者が相当数存在している状況を踏まえ、保全措置義務の実効性を確保する観点から、直罰規定の導入など所要の措置を講ずるとともに、併せて都道府県に対し適正かつ効果的な指導等を行うことを要請すること
3 その他規定の明確化等
厚生労働省は、指導指針等の規定が徹底されていない事業者が少なからず存在している状況に加え、前払金の返還に関する消費者苦情が絶えないことも踏まえ、以下の観点から消費者苦情を解決するための対策を検討し、改善の措置を講ずること
- 指導指針では、前払金の償却年数は平均余命を勘案し決められていることと規定されているが、入居時の年齢や要介護の程度等に関係なく一定に決められている例が相当数みられることから、償却年数が入居後の平均余命等を踏まえた相応のものとなるよう一定のひな型を設けるなどにより、当該規定の実効性を確保すること
- 老人福祉法第29条第6項では、前払金の算定基礎を書面で明示することが義務づけられているが、指導指針において定める内容が明確性を欠くこと等もあって、事業者側が返還時に受領することができる利用料等を明示していない例、具体的な記載となっていない例、保全措置に関する記載が確認できない例が多数みられることから、都道府県に対し指導の徹底を要請するとともに、指導指針又は施行規則で記載すべき事項等を明確に規定するなど所要の措置を講ずること
- 消費者が有料老人ホームとの入居契約を行う前に、自らの健康状態や財産等を踏まえて、有料老人ホーム以外の施設とも比較して入居施設を選択するために必要な情報を入手したり、個別に相談を行ったりすることができるように公的な仕組みを整備(既存の公的機関の活用も含む。)すること