10月5日、大阪市にある新梅田研修センターにおいて特定施設専門研修(大阪会場)を開催し、特定協会員事業者33法人71名と多数の方にご参加をいただきました。
大阪会場の専門研修では「認知症ケア」をテーマに、第1部「認知症緩和ケア・タクティールケア」、第2部「認知症の理解と対応」、第3部に「認知症ケアの取り組みに関する情報交換会」を実施いたしました。研修後にいただいたアンケート結果から9割の方が満足という回答をいただき、大変有益な研修会でした。
第1部の「認知症緩和ケア・タクティールケア」では、(株)日本スウェーデン福祉研究所の上坂勝芳先生から、認知症緩和ケアの講義とタクティールケア(初級)の手技についてご指導いただきました。上坂先生より、『認知症緩和ケア』という言葉は2年程前に某学会で今後の認知症ケアを支えていくのは「パーソンセンタードケア」「治療薬」「IT・情報の共有」そして『認知症緩和ケア』と言われたことが始まりで、タクティールケアはその認知症緩和ケアのひとつの方法であることをご説明いただきました。実際に参加者同士でタクティールケアを体験していただきましたが、体験前は同じテーブルでもあまり会話がなかった参加者同士が、体験後には「ありがとうございました」「気持ちよかった」「安心した」と急に会話が生まれました。タクティールケアは単に触れる、擦ることではなく、コミュニケーションの大切な方法であることを実感されたようでした。タクティールケアを初めて体験する参加者も多く、とても新鮮で、楽しい講義でした。
研修会の様子
研修会の様子
第2部の「認知症の理解と対応」では、(独法)東京都健康長寿医療センター福祉と生活ケアチームの伊東美緒先生に「認知症の方の想いを探る」をテーマに特にアルツハイマー型認知症の方への対応に関してご指導いただきました。伊東先生が経験された数多くの事例を挙げながら、認知症の方の「WantsとNeeds」の違い、物盗られ妄想の方の背景や想い、認知症の周辺症状に「ケアが届く」ための対応、そしてケアに関わる職員の想いや「無意識の強制」によるケアについてご説明いただきました。参加者は伊東先生の話される事例について「なるほど」「納得できる」とうなずきながら、日頃の自施設の認知症ケアについて振り返っておられる様子でした。
研修会の様子
研修会の様子
最後に、6、7名のグループに分かれ、上坂先生、伊東先生を交えて「情報交換会」を行いました。申込みの時にいただいた自施設での困難事例等を用いながら、他施設での取り組みや困難事例について活発な意見交換がされました。各施設の人員体制やハード面、環境等は異なる点はありますが認知症の方が安心して生活できるように支援していきたいという想いを共有できた時間になったようです。
情報交換会の最後には、上坂先生から「介護の仕事は大変だけれども、あきらめないで、希望をもって取り組んでほしい。困難なケースについて今解決できなくても今後のケアに必ず通じるものになると思います。利用者そして同僚・後輩職員に希望に満ちた選択肢を提案できる介護職となってください。」と、伊東先生から「利用者にとって管理に縛られない、余裕のある生活を提供してほしい。利用者の方それぞれの本質に携わるケアが大切です。そのためには「気づき」が重要で少しの間でも利用者の行動や利用者と職員とのやりとりを観察する時間をとってみましょう。気づきが改善の第一歩です。」と、ご講評いただきました。
情報交換会の様子
情報交換会の様子
最後になりますが、ご参加いただきました皆様お疲れ様でした。尚、いただきましたアンケートは今後の活動の参考にさせていただきたいと思います。
※アンケート結果、情報交換会の感想、意見の一部を以下にご紹介させていただきます。
- 【認知症緩和ケア・タクティールケア】
- ・初めて聞く名前とケアの方法でした。不穏な方がおられるのでとても参考になりました。
- ・緩和ケアはターミナル時にのみ用いられると思っていましたが早期から緩和ケアの視点を用いることによりQOLの向上につながることがわかった。
- ・ 「言葉をこえたコミュニケーション」実際に体験してみてよかった。
- ・認知症の方への関わり方が増える学びでした。
- ・触れるケアについて、タクティールケアはスキンシップとは違う感じがした。
- ・声掛けだけでは不安が軽減しない利用者に有効な方法だと思った。
- ・人はいつも接触の中で生活をしているという言葉が心に残りました。
- ・こんなケアがあったのかと驚きました。試したい気持ちでいっぱいです。
- ・緩和ケアの方法のひとつとして是非取り入れたいと思いました。
- 【認知症の理解と対応】
- ・先生のお話にうなずくことが多かったです。今までのケアを見直していきたいと思います。
- ・認知症の方にとって職員は重要な存在であり、いつも見られているのだと再認識しました。
- ・日頃のケアを振り返り、ドキッとさせられる内容でした。業務をこなすことに集中するあまり出来ていなかったように思います。
- ・ケア方法は単一ではなく千差万別であることを再認識しました。
- ・自分では認知症を理解していましたが、講義の中で新たにいろいろな学びがありました。
- ・自分の行っている無意識のケアをどこまで改善できるかわかりませんが業務に活かしたいと思います。
- ・入居者の目を見て行動をして、話を聴いていこうと思いました。
- ・特養勤務時代を思い出し、“その通り”というケアをしていたことを思い出し苦笑いでした。
- 【情報交換会】
- ・事例を各テーブルで話せて、また他施設の方と話せたのは刺激になった。
- ・様々な事例や意見交換ができ楽しく意義深い交流になりました。
- <情報交換会の概要(例)>
- ・入居者様の外出願望が強くなってきたらどうしたらよいか?
?1ヶ月に1、2回買い物ツアーなどを行い、外出を多くしている(社会との関わりをもつ)。?レクリエーションを充実させる。曜日毎にメニューを変え活性化する。少人数グループでより深い内容にする。グループの中での人間関係の関わりを持つこと。?適度な声掛けにより十分お話をお伺いし、ご本人のスケジュールなどをお知らせして納得していただく。 - ・新入居者で全盲、耳が聞こえにくい、入居したことを理解出来ていない。夜間も居室から出てこられる。転倒の危険があり、ホームの対応はどうしたらよいか?
?今日学んだタクティールケアを取り入れてみてはどうか。?散歩、ちぎり絵などのレクリエーションの時間を増やしてはどうか。?ご家族様の協力を得る。信頼できる人を作る。?職員の勤務体制の見直しを行う。?生活歴などの情報収集をして、ご本人の役割を見出す。 - ・食事の時間が長い方(2時間程度)の対応をどのようにすればよいか?
?嚥下に問題がないか見直す。?朝はプリン等軽いものにして昼・夕のうち1回だけでもゆっくり食べていただける時間をもってみてはどうか。?1時間で食べきれる量にして高カロリーなものにしてはどうか。 - ・「家に電話してほしい」という訴えが強いが、電話をしたことをすぐに忘れて、「またすぐかけてほしい」と訴える方の対応をどのようにすればよいか? 家族に電話しても難聴で話がききとれない。
?本人の安心を得られるように職員が電話のふりをする。?ダミーの電話を置きいつでも電話を掛けられるようにする。?耳が聞こえるような補聴器をつける。 - ・多動、暴言がひどい方への対応をどうしたらよいか? 転倒の危険もある。
?人手が足りないのであればボランティアにサポートしてもらう。?他の入居者に「認知症」について理解してもらえるようスタッフから働きかける。?テーブルは別でも他の方と一緒の場所にいるという安心感をもってもらう。 - ※他にもたくさんのご意見がありました。ありがとうございました。
なお、いただいたご意見はすべての事例において効果があるわけではございません。お困りの事例がございましたら介護職員や看護職員・計画作成担当者等共同で情報交換を行い個別の事例において検討することをお勧めいたします。
会員専用ページに研修資料を掲載いたしておりますので併せてご覧下さい。