10月18日、「特定施設 嚥下・リスクマネジメント研修会」を東京渋谷FORUM8オリオンホールにて開催しました。この研修会は、特定協として新たに取り組んだ研修で、「毎日の食事をより楽しむために、嚥下に対し多くの知識を学び考えることで、生活の質の向上に資すること」を目的に開催し、53 法人147 名の皆様にご参加いただきました。
第1部は「要介護高齢者の飲み込みの機能と障害について」、第2部「嚥下障害を見抜くコツとトラブル回避」をテーマとして、中山 渕利氏(日本大学 歯学部 摂食機能療法学講座 助教・歯学博士)にご講演いただきました。初めに中山氏から「介護現場では食べられる方が胃ろうになっていたり、食べられない方が食べていたりすることがある。現場では、誤嚥性肺炎
や窒息等のリスクに重きをおく傾向があるが、今回の研修会は“ご入居者の楽しみ、生き甲斐に目を向けられる研修”になってほしい」とメッセージをくださいました。
講義では、摂食嚥下機能のメカニズムや“食”という一連の動作に必要な5期(先行期、準備期、口腔期、咽頭期、食道期)等の基礎知識を踏まえた上で、摂食嚥下障害に至る原因、加齢に伴う嚥下機能低下の関連性(嚥下反射、サルコペニア、脳卒中等に伴う後遺症、認知症等)について説明していただきました。また、摂食嚥下障害を疑う症状や観察のポイントを嚥下造影検査の映像を見ながら、摂食嚥下障害の方が陥りやすい誤嚥性肺炎や窒息等について、どのように予防したらよいのか、誤嚥、窒息しやすい食品とはなにか、適切な食事形態、食事姿勢とはなにか、起きてしまった時の対応はどうすればよいのかを「リスクマネジメントの観点」からポイントを絞ってご教示くださいました。
第3部「口の機能を維持するための対応法」について、石山 寿子氏(医療法人社団永生会 南多摩病院 言語聴覚士)にご講演いただきました。食事のための意味ある離床(呼吸機能、腸管の蠕動等の向上や精神ストレスの軽減等)、嚥下機能に影響する薬剤の調整(薬を調整することで口の機能の回復の可能性がある)、食べられる口を維持するための口腔ケアや間接的訓練方法、嚥下を誘発する食事介助の仕方等について言語聴覚士の視点から詳しく説明していただきました。
第4部「要介護者も介助者とともに生きがいを感じる食事づくりについて」をテーマに、木口 圭子氏(社会福祉法人賛育会 賛育会病院 管理栄養士)にご講演いただきました。摂食嚥下障害の方にどのようなお食事を提供すれば良いか、食材選びや調理方法(切り方、
加熱、水分量、素材の組み合わせ、味付け等)を管理栄養士の立場からお話しくださいました。食べる上で特に大切な“噛む”ことをポイントに、現代と弥生時代の日本人の比較を交えながら噛む回数、食事時間、噛むことのメリット(内臓の働きを助ける、大脳の働きを活発にする、良い歯を作る、ダイエットになる等)について教えていただきました。また、高齢者の方にも使いやすいシルバーデザイン等の「頑張らない料理グッズ」をご紹介し、参加者も「なるほど」という声が上がっておりました。
最後に中山氏にコーディネーターを務めていただき、摂食嚥下障害がある認知症ご利用者の2事例を題材にグループディスカッションを行い、活発な意見交換が行われました。
本研修会は、特定協として初の試みでしたが、各ホームで摂食嚥下障害かの見極めや対応、安全な食事の提供、食の質向上に課題を持たれていると実感した研修会でした。